「3COINS」企画案ほぼ採用、賞与は半期1000万円も 成長支える自由な風土
- 政治・経済
- 2025年7月31日

急成長する雑貨店の新興「3COINS」。成長の源泉となっているのは、社員が生き生きと働く自由な風土だ。経営層は社員の企画案には基本「ノー」とは言わず、成果次第で賞与は半期で1千万円になることもある。3COINSの強さの秘訣とは。
「インフレ下では商品の価格を上げながらも、どれだけ消費者に驚きを提供できるかという競争になる」。流通アナリストの中井彰人氏はこう指摘する。
3COINSには「バイヤー」と呼ばれる商品の企画担当者が約20人在籍し、毎月700~800種類にのぼる新商品を送り出している。企画段階では商社やメーカーと議論しながら、商品の仕様や価格、販売数量などを詰めていく。
3COINS商品部のバイヤー、堀内しおり氏はヘッドホンなどデバイス商品の企画を担当する。ヒット商品はミニトイカメラ(税込み2750円)だ。指でつまめるほどの大きさで、ボタンを押すとレトロな風合いの写真を撮れる。「え、これで撮れるんですか」。記者の店舗取材に同行したカメラマンは目を丸くしていた。
●企画案に基本「ノー」はない
ミニトイカメラは4月に発売後たちまち完売した。6月中旬に再入荷したものの、同月下旬時点ですでに品薄の状態だ。堀内氏は「ミニチュアのようにつくった。何よりも見た目がかわいく、手に取ってもらえるものをつくろうと考えた」とポイントを語る。
3COINSを運営するパルグループホールディングス(GHD)の新卒社員は、まず店舗の販売員としてキャリアをスタートさせる。店舗が商売の基本だからだ。堀内氏も13年に新卒入社し、千葉県や東京・渋谷の3COINS店舗で店長を務めたのち、人気職種のバイヤーに転じた。
3COINSの商品力を支えているのが、パルGHDの自由な気風だ。「企画案も基本的に『ノー』とは言われない」(堀内氏)。あくまで社長や事業部長ら上司は助言に徹する。
中核事業会社パルで雑貨事業を統括する澤井克之第四事業部長は「商品企画は何でもありで、基本的に(担当者に)任せている。あまり縛りすぎない方が面白いアイデアが出てくる」と語る。
パルGHDは1カ月単位で商品を売り切る「4週間MD(マーチャンダイジング)」のもと、3COINSなどのブランドで店頭の商品をめまぐるしく入れ替える。開発する商品の数も多くなり、試行錯誤の回数は増える。得られた教訓を次の開発に生かす好循環が回っている。
●「拝啓社長殿」制度でアイデア提案
同社の自由な気風を象徴するのが「拝啓社長殿」「拝啓事業部長殿」と呼ばれる提案制度だ。年2回、アルバイトを含む全社員が社長や事業部長にアイデアを自由に提案できる。創業者の井上英隆氏が現場の意見を取り入れるために始めた。
SNSを使った販促活動でも自由な社風が生かされた。パルGHDではアパレルや雑貨事業の店員が希望すれば、社内インフルエンサーとしてSNSで発信し販促できる。SNSは炎上がつきまとい企業は制限をかけがちだが、パルGHDでは最低限の研修をするだけで運用は原則社員に任せている。
そして、商品企画やSNSでの発信で成果をあげれば、賞与で報いる。賞与の額は半期に最大数百万〜1000万円。給与水準が決して高くないアパレル業界では破格だ。バイヤーの賞与は企画した商品の売り上げや粗利、最終処分の商品の比率などを加味する。社内インフルエンサーにはSNSのフォロワー数に応じ手当を支給する。 パルの小路順一社長は「うちはいわゆる『べた平等』ではなく、『働きに応じて平等』だ。加点主義でどんどん昇給・昇進していくので、社員が自主性を出しやすい」と語る。
ただ、任された責任の大きさに合わせて成果は厳しく問われる。同じポジションでも社員間で給与総額の差が開く。それでも「がんばった分だけ目に見える形で返ってくるので、やりがいは大きい」(堀内氏)。
パルGHDにはブランド間で競い合う文化が根付いている。社員もブランド間での異動は少ない。あえて組織の縦割りを強めて複数の事業でしのぎを削り、SNSの活用などの成功事例は本社が仲立ちする形で他の事業に横展開するのがパルGHD流の経営だ。
業界を見渡せば、100円ショップ界の巨人、大創産業もシンプルなデザインの生活雑貨を販売する「Standard Products(スタンダード プロダクツ)」や女性向けの「THREEPPY(スリーピー)」など300円以上の価格帯を扱う業態を相次ぎ出店している。流通アナリストの中井氏は「3COINSは商品開発で業界をけん引し続けるだろうが、大創産業も追随する。今後は両社の対決になる」と予測する。
日経ビジネスより転用
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