参院選の「三つの視点」政権の枠組みの行方・物価高対策・短期決戦…かつてない混迷の可能性も
- 政治・経済
- 2025年7月4日
第27回参院選(3日公示、20日投開票)の立候補が17時に締め切られ、選挙区・比例あわせて522人が立候補した。今回の選挙では、三つの視点が大切になる。
選挙期間は「見極め」の時間

参院選が公示された3日の国会議事堂(読売ヘリから)=安川純撮影
第一は、「政権選択」に直結しない参院選で、政権の枠組みがどうなるかの見通しが極めて重要になるという点だ。
カギを握るのは、大政党ではなく中小政党の戦いぶりになる。
第二は、任期6年で解散がなく、中長期的な課題に取り組む姿勢が期待される参院議員の選出にあたって、最大の争点とされる物価高対策だけで判断していいかどうかという視点だ。
与党の自民、公明両党は国民1人あたり2万円を基本とする給付、野党は消費税減税などを物価高対策として公約に掲げている。「ばらまき」とも批判される政策に、未来に対する責任感と、国民生活を下支える有効性があるか、厳しい目で見る必要がある。
第三は、期日前投票の仕組みの充実や、SNSの選挙に対する影響力の増大で、「短期決戦」の傾向が過剰に強まっているという自覚だ。17日間の選挙期間中にも、投票行動を左右する出来事があるかもしれない。一時的に高まった感情や不正確な情報に基づく投票にしないためにも、選挙期間はしっかり使った方がいい。
ほとんどの場合、政権に直結しない参院選
第一の視点に関しては、もう少し説明が要る。
参院選が「政権選択」でないのは、首相指名選挙の結果が衆参で異なった場合、衆院の決定が優先されるからだ。
自民党はこれまで、国政選挙で議席を減らすと「総裁交代=首相交代」のやり方で政権を維持してきた。このうち、参院選で議席を大きく減らした自民党の総裁が交代した例は、1989年の宇野宗佑首相(当時)、98年の橋本龍太郎首相(同)の時しかない。
2007年参院選での大敗後、続投を決意しながら体調不良を理由に退陣した安倍晋三首相(同)は、参院選の敗北の責任をとって交代したわけではなく、ほとんどの参院選は、政権交代どころか、首相交代にも直結しなかった。
「50」の目標ラインは低すぎる?
しかし、今回の自民党は、公明党と合わせても、衆院で過半数の議席がない。
国政選挙で負けたら総裁の顔をすげ替えるという手法を安易に発動すれば首相指名選挙が必要になり、自民党が首相ポストを確保できる保証はない。

皮肉なことに、現在の少数与党状態は、石破茂首相(自民党総裁)の続投には有利な環境と見ることもできる。
石破首相は非改選議席を合わせ、自公による参院での過半数維持を勝敗ラインとしている。そのために必要なのは50議席で、公明党が10議席程度を獲得すれば、自民党は40議席前後でいい。
自民党が過去、参院選で40議席を割ったのは、宇野政権退陣につながった1989年の36議席、第一次安倍政権下での2007年の37議席の2度しかなく、前者は消費税導入、後者は「消えた年金問題」が打撃となった。
そう考えると、今回の勝敗ラインが低過ぎるという指摘は当然だろう。
どの党が「勝利」しても公約は紙切れに
問題は、参院選の結果、与党の自民、公明の両党が過半数を維持しても、衆院の構成は変わらないことだ。
次の国会で、与党が公約に掲げた給付を実現するために必要な25年度補正予算案が可決される保証はない。同じことは、消費税減税を掲げる野党側にも言える。
つまり、参院選でどの政党が「勝利」しても、政権の枠組みが変わらなければ、公約は紙切れに終わる可能性が高い。
にもかかわらず、どの政党も参院選後の政権の枠組みについて積極的に語っていない。選挙戦術か、欺瞞(ぎまん)か、有権者の眼力も問われるところだ。
過半数を維持できなければ政局に
かりに自公で参院での過半数を維持できない場合、石破首相の政権運営は行き詰まる。通常国会のように、政策ごとに野党の連携相手を変える「部分連合」が、次の国会でもうまくいくとは限らない。
連立政権の組み替えか、衆院解散総選挙で起死回生を図るか、自民党内には「下野も選択肢に入れるべきだ」という声さえある。連立組み替えの場合でも、現在の野党に首相ポストを渡さなければ実現しない展開があり得る。
衆院解散総選挙で過半数回復を目指そうとする場合は、総選挙前に自民党が石破首相を交代させ、新しい「顔」を立てる動きが強まるのは必至だ。
注目すべき「1人区」、受け皿はどこに
こうした激震が起きるかどうかは、「1人区」での各党の成績にかかっている。
人口が少なく保守的な「1人区」では、自民党が優位に立つことが多かった。
しかし、「政治とカネ」の問題もあり、中道リベラルと見られた岸田文雄政権、石破政権の路線に不満を持っていた保守右派を中心に、自民党離れが起きている。
24年の総選挙では、その「受け皿」を国民民主党が担い、躍進した。
先の東京都議会選挙でも、自民党支持だった保守右派層を国民民主党と参政党が吸収する現象が見られたものの、国政与党に対する批判票の多くは、国政政党ではない都民ファーストの会に向かった。
参院選に、都民ファーストはいない。また、国民民主党の政党支持率は漸減している。それゆえ、全ての「1人区」に候補者を擁立している新興の参政党が注目されるようになった。参政党が自民党支持層に食い込めば、立憲民主党をはじめ野党側が「漁夫の利」を得られるからだ。
一方、「1人区」の行方とは別に、党勢が停滞気味の日本維新の会の消長も、今後の政局の行方を占ううえで注目される。
各党の議席次第で流動化、かつてない選挙
石破首相は維新の会の前原誠司共同代表とケミストリーが良く、衆院での少数与党状態を解消するために維新の会を引き込もうとするとの見方は、以前からくすぶっている。
参院選で議席が伸びない場合、維新の会は与党入りすることで党勢回復を図ろうとするかもしれない。
あるいは、自民党が「釣り堀方式」と呼ぶ手法で、将来の再選に不安を抱く維新の会所属の衆院議員を「一本釣り」して引き入れ、少数与党状態の解消に動くかもしれない。
与党が勝つか、野党が勝つかという単純な構図ではなく、どの政党がどの程度の議席を獲得するかで、選挙後の政権の枠組みが決まってくるという意味で、かつてない参院選になることは間違いない。
読売新聞オンラインより転用
コメントする