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3代目姉妹の梨づくり、しんどい作業も隠さない タレに詰まった物語

こたつにミカンの真冬に夏の果実・梨の話!? と思った方、今や梨も様々な加工品として味覚を年中楽しめます。

そんな梨の消費拡大に励むのが「梨娘」こと福井県の近藤美香さん(32)、井手孝美さん(30)姉妹だ。2人が栽培に携わって10年。カラフルな服装で作業をし、農業のイメージアップにも貢献する。

県北部の丘陵地を走るフルーツライン(広域農道)沿い。スイカやメロンなどの畑が広がる一角に、坂井市三国町池上の姉妹が働く「近(こん)ちゃんふぁ~む」がある。約40アールに、甘みが強くジューシーな幸水、甘みと酸味が調和した豊水を中心に約70本の木を育てる。

農園は1980年に祖父母が始めた。その祖父が2012年夏の収穫期に倒れた。美香さんは金沢市内でエステティシャンとして働き、結婚した孝美さんは子育ての真っ最中。作業を手伝った経験がなく「梨は勝手に実るもの」と思っていた姉妹も、突然の事に、母由美子さん(58)と懸命に実を収穫した。間もなく祖父が亡くなり、由美子さんが農園を守り継ぐと決意。姉妹も手伝いを続けることにした。

梨の栽培は、冬季に枝を剪定(せんてい)して切り口に薬を塗る作業から始まる。春に花が咲くと、蜜蜂や人の手で受粉させる。1カ所にたくさん付く実を摘んで1個だけ大きく育てる摘果作業と続き、8月に幸水、9月に豊水の収穫を迎える。その後も、10月には翌年に備えて肥料を散布する。

梨の詰まったコンテナを軽トラに積むなどの力仕事も多いが、3年が経ち祖母も見送った頃には、「3代目として本腰で継ぐ」と姉妹の気持ちも固まった。

■台風で落果 涙の止まらない2人は

大事に育てたのに、規格外や小さな傷のためJAへ出荷できない梨を毎年廃棄するのが、とてもつらかった。そこで2人は16年にインターネットで、味は変わらないのに出荷できない実の通信販売を始めた。「今まで食べた中で一番」などと評価され、「言葉に表せないほどうれしかった」。

出荷できない実で加工品開発にも取り組んだ。自宅の台所で試行錯誤し、最初に出来たのが肉料理やサラダ、麺類などに適した万能タレ「ものがたれ」。姉妹が一生懸命に梨を育てる物語の詰まったタレだ。

第2弾は、18年9月に襲った台風21号がきっかけになった。収穫目前の豊水約6千個が落果し、涙の止まらない2人は、落ちた梨をレトルトカレーの具材に生かそうと発案。地元洋菓子店の協力でピューレにし、ミンチ肉を加えて「若狭牛 美梨(びなし)カレー」に仕立てた。

その後も「すりおろし美梨ジュース」「美梨ジャム」と品数を増やし、今では地元の農産物直売所や温泉旅館なども取り扱う。

姉妹はピンクのポロシャツや青いデニムシャツ、自らデザインした帽子姿でいそしむ農作業をSNSで積極的に発信する。おしゃれな服装で農業のイメージを変え、楽しさとやりがいを知ってもらおうとの思いからだ。時に、日光の下で働く顔にマスクの日焼け跡をスタンプして動画発信するお遊びも。しんどい作業を隠さず撮影するだけでなく、一つひとつの梨に愛情を注ぐ姿が注目を集める。

「今後は地元農産物を使った加工品の開発にも力を入れ、食品ロスをなくしたい。続けている美容の仕事と食のコラボも発信したい」と美香さん。孝美さんも「おいしいと喜ばれる梨を毎年確実に届け、福井の農産物をPRしたい」。今年も姉妹の梨作りが始まっている。(堀川敬部)

朝日新聞より転用

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