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五輪会場周辺 代々木公園炊き出しに列 「追いやられた」人々

多様性と調和を基本理念に掲げ、巨額の費用をつぎ込んで開かれている東京オリンピック。足もとの競技会場周辺では、大会や新型コロナウイルスへの対応のために居場所を追い出された人たちがいる。何が起きているのか。渋谷区にある都立代々木公園を歩いた。

女子ハンドボール日本代表が国立代々木競技場で勝利した7月27日、隣接する代々木公園は雨だった。隅にある歩道橋の下で雨宿りする男性がいる。橋脚にもたれかかって雑誌のパズル「数独」を解いていた。声を掛けると「これ? 暇つぶしだよ」と苦笑した。

男性は福島県出身。62歳という。会社経営を巡るトラブルで職を失い、公園に来て2年以上がたつ。園の中央広場には屋根とベンチのあるお気に入りの場所があったが、今はそこに入れない。五輪やコロナ対応に使われているからだ。

都は中央広場をパブリックビューイング(PV)会場とする計画を進め、コロナ下のPV開催に批判が集まるとワクチン接種会場に転用した。周囲は柵が張り巡らされ、警備員や警察官の姿も多い。男性は接種会場を指さして「これまでの公園と違う。柵は作ってもらいたくなかった。追いやられた気分だ」と語った。

男性にとって五輪は楽しみの一つだ。自身もサッカーや柔道を経験した。ラジオも携帯電話もなくわずかな貯金を使って新聞を買っている。「柔道にスケートボード……。日本人がメダルを取ればやっぱりうれしい」と興奮したように語った後、視線を落とした。「でも、それだけのことだから。自分には何もない」

競技場の近くに進むと休憩中の男性警備員が会話に応じてくれた。五輪前から公園の様子を見てきたという。「以前はあそこに若い人がいたんですよ。コロナで仕事がなくなったと言っていましたね」。そう話して指をさした場所は柵で隔てられて入れなくなっていた。

雨が上がり、さらに園内を歩くと通路脇でビスケットを食べる女性の姿が目に入った。テントを張って暮らしているという。トイレ掃除で月4万円ほどの収入があるが、アパートは借りられない。「自立したい」との思いは強く、生活保護費は受け取っていない。

ワクチン接種は受けたいが、副反応が怖い。周囲には住民登録がないために接種券を受け取れず、あきらめた人も多いという。国は住民登録がなくても柔軟に接種できるよう求める通知を出しているものの、あまり進んでいないようだ。

女性は憤っていた。「五輪に何兆円使ったか知らないけどもっと生活を大事にしてほしいよ。コロナの状況はひどいし、誰も幸せになっていないじゃないの。これじゃ平和の祭典じゃなくて『不幸の祭典』だよ」

夕暮れが近づくと公園を東西に区切る歩道に人が集まり始めた。炊き出しを待つ人たちだ。午後6時前には約40人が一列に並び、若者の姿もある。支援団体のワゴン車が到着し、カレーライスを配っていった。歩道の端に座ってその場で空腹を満たす人たち。街灯に設置された「TOKYO2020」の旗がすぐそばで揺れていた。

支援の専門家はこうした状況をどう見るのか。一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事(52)は「過去の五輪でも開催都市で路上生活者が排除されてきた。残念ながら東京でもそれが繰り返されている」と指摘する。コロナの感染拡大と失業は連動しており、実際に感染者が増えると炊き出しの行列がのびる現象が起きているという。「今は感染対策と貧困対策に注力すべき時だ」と稲葉さんは強調した。

各地で猛暑日を記録した4日、公園を再訪すると最初に会った男性が同じ歩道橋の下にいた。五輪開会式で弁当約4000食分が廃棄されたことが話題になったといい「捨てるなら俺にくれってみんな言っているよ。そんな人たちが五輪をやっているなんておかしいよねえ」とまた苦笑していた。

毎日新聞より転用

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