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仕掛け人が語る、ドコモがカーシェア参入のワケ

「NTTドコモは、カーシェアリング事業に参入する」――ドコモの吉澤和弘社長がこう発表すると、記者会見場がどよめいた。10月に開いた新モデル発表会でのことだ。

ソフトバンクグループが配車大手の米Uber Technologiesへの出資で合意するなど、他社を支援する動きはあるものの、大手キャリア(携帯電話事業者)が自社でカーシェアリングサービスを展開するのは初めてだ。

サービス名は「dカーシェア」。「dアカウント」を持っていれば、専用のスマホアプリで車両の検索・予約・決済がワンストップで行える点と、「企業とのカーシェア」「レンタカー」「個人間カーシェア」の3形態に対応している点が特徴だ。

「キーはもう、あなたの手のひらに。」をキャッチコピーとし、「企業とのカーシェア」「レンタカー」のサービスを11月8日に開始。「個人とのカーシェア」は約1カ月間にわたってオーナーを募集した後、12月7日にスタートしたばかり。吉澤社長は「早期に50万人の会員獲得を目指す」と意気込む。

ドコモはなぜ、カーシェア参入を決めたのか。どのような点が強みなのか。「dカーシェア」を担当するライフサポートビジネス推進部 モビリティ事業 担当部長の小笠原 史(たかし)さんと、モビリティビジネス 担当主査の伴野聡さんに話を聞いた。

●自転車シェアリングの成功がきっかけ

小笠原さんによると、カーシェア参入の背景には、子会社のドコモ・バイクシェアが2011年から手掛ける自転車シェアリングサービスの成功があるという。

自転車シェアリングサービスは、交通系ICカードでの決済に対応するほか、GPS(全地球測位システム)を活用したリアルタイムでの安全管理も導入。各種損害保険にも加入しており、万が一事故を起こしても安心だ。

こうした仕様が評価され、東京都内の千代田区、中央区、新宿区――などさまざまな自治体で公共サービスとして定着。現在は都内に約4000台が配置され、街のあちこちで赤い自転車を見かける機会も増えている。

「自転車シェアリングで一定の成果を得たため、ノウハウを生かして人々の生活を支える新サービスを始めたいと考えた。カーシェアリングに着目した理由は、同じモビリティービジネスであり、海外で流行しているため。日本は定着度が劣るが、消費者向けサービスを手掛けるドコモにとって必要なチャレンジだと考え、2年ほど前に参入を決めた」(小笠原さん)

参入を決めた後は、消費者の意識調査を徹底的に実施。ユーザーのリアルな意見を踏まえ、カーシェアリングが日本市場で受け入れられるのかを検討した。

「意識調査の結果、人々はカーシェアリングに対して『車を傷つけたらどうしよう』『事故や犯罪に巻き込まれた際はどうすればいいのか』『車の受け渡し場所を間違えたらどうしよう』――といった不安を持っていることが分かった」(同)

こうした意見を踏まえ、小笠原さんは「主力の通信事業で築いたユーザーとのタッチポイントや、自転車シェアリングで培ったサポート体制はドコモならではの強み。これらを前面に打ち出せば、カーシェアリングでも成功できる」と考えた。

「携帯電話ユーザーに向けたメールマガジンの配信や、EC(インターネット通販)プラットフォーム『dマーケット』への告知記事の掲載によって、多くの人にカーシェアリングの安全な利用法を訴求していきたい。対面での説明会・勉強会も開催する予定だ」(同)

●決済面で他社と差別化

「dカーシェア」は決済面でもドコモならではの強みを生かし、他社との差別化を図っている。

企業・個人とカーシェアを行う際、ドコモ端末のユーザーは、車両の利用料金と月々の端末使用料を合算する「ドコモ ケータイ払い」を利用できる。決済時は100円につき1ポイントの「dポイント」がたまるほか、ためたポイントを支払いに利用できる。

タイムズ24が運営する「タイムズ カー プラス」など、他社のカーシェアリングサービスは会員に月額料金を課しているケースが多いが、ドコモは月額料金を設けず、サービス利用時のみ課金する仕組みを導入した。

小笠原さんは「月額料金制では、使用頻度が低いユーザーが離れる恐れがある。dカーシェアは20~30代の若者をターゲットとしているため、必要な時に気軽に使ってもらうことを最優先に考えた料金プランを設けた」と説明する。

dポイント払いに対応した理由も、「クレジットカードを持たない若者にもdカーシェアを使ってもらうため」という。

●現ユーザー数は5000人

ドコモならではの工夫を注ぎ込んだ「dカーシェア」だが、11月8日のスタートから1カ月。ユーザー規模はどの程度なのだろうか。

小笠原さんによると、取材を行った11月末現在の会員数は「5000人程度」。「いいペースだと捉えている。現在は会員数を稼ぐフェーズ。この調子で獲得していきたい」という。

伴野さんは「アウトドア関係の企業から、『dカーシェアと連携して観光地などを巡る新サービスを一緒に始めたい』という提案もいただいた。今後検討を進めたい」と明かす。

●アプリの使い勝手と車のラインアップが特徴

好調な滑り出しについて、小笠原さんは「アプリの使い勝手の良さにこだわったこと」と説明する。

ユーザーがスマホアプリを立ち上げると、位置情報を基に「あなたの周辺に○○台のクルマがあります」と表示される。「今すぐ乗れる近くのクルマ検索」をタップすると、現在地と周囲の企業・オーナーを示す吹き出しが地図上に現れる。

吹き出しをタップすると、瞬時に決済画面へと移行。自動車のスペックと使用時間に応じて料金をキャッシュレスで支払える。

個人が提供する自動車を選択した場合は、アプリ内のメッセージ機能を活用してスムーズに受け渡し場所や料金の交渉に移れる。

●複数のパートナー候補と交渉中

業界トップクラスのパートナー企業と提携して多様な車をそろえ、さまざまな顧客ニーズに対応したことも好調の一因だ。

レンタカーでは、トヨタレンタカー、オリックスレンタカー、ニッポンレンタカー、日産レンタカー――など7社と提携。企業とのカーシェアは、当初はオリックスレンタカーのみと組んでいるが、現在「カレコ・カーシェアリングクラブ」を手掛ける三井不動産リアルティや、「カリテコ」を運営する名鉄協商と交渉中。対応する地域と車種の拡大を目指している。

「旅行やウインタースポーツはレンタカー、買い物や送り迎えは企業とのカーシェアといったように、家族構成や趣味に応じて幅広い層のユーザーの利用が進んでいる。この動きを加速させたい」(伴野さん)と展望を描く。

個人とのカーシェアについては「オーナーを募集したところ、米Tesla製のEV(電気自動車)や、4WD(四輪駆動車)『Jeep』といったユニークな車を提供する人が集まり、スポーツカーなども充実。レンタカーよりも格安な料金で利用できるため、自動車ファンに楽しんでもらいたい」(同)という。

●カーシェアという文化を日本に根付かせる

スタートは好調な「dカーシェア」だが、吉澤社長が掲げる「50万人」は大きな目標だ。今後どうユーザーを獲得していくのか。

小笠原さんは「カーシェアリングは、ある日突然大ヒットするタイプのビジネスではない。カーシェアリングが不安だと考える層は依然として多いため、当面はユーザーに『dカーシェアは安全だ』と理解して頂くための取り組みを徹底したい」と話す。

理解促進に向けた施策として、dカーシェア専用のコールセンターも設けた。「サービスの使用法や料金プランなどについて、丁寧な顧客対応を行っていく」という。

必要に応じて、パートナー企業の拡大やアプリの改善も適宜実施する。伴野さんは「ゆくゆくは、自動運転などの最新技術との融合も視野に入れている」と話す。

「収益の獲得だけではなく、日本にカーシェアリングという文化を根付かせることを目指したい」と小笠原さんは期待を込めている。

ITmedia ビジネスオンライン
一言コメント
カーシェアより、ネットを含めた携帯料金値下げをお願いします。

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